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婚約指輪と言えば、多くの人の脳裏によぎるのは、クリアなダイヤモンドの輝きを頂くリングの姿ではないでしょうか。婚約指輪、エンゲージリングの概念が生まれたのは、古代ローマ時代まで遡ると言われています。当初は鉄製のリングから始まり、時代が進むにつれて鋳造技術や宝石加工技術が進歩して、リングはより多様性を得ていきます。貿易や戦争、開拓民の移動と共に、結婚におけるダイヤのエンゲージリングの概念は世界中に広まっていきました。しかし、日本に「エンゲージリングはダイヤの指輪」という概念が大きく広まったのはごく近年、1960年代からのことなのです。
婚約指輪にはなぜダイヤモンドが一般的なのか
エンゲージリングにダイヤが用いられ始めたのは、世界史でいうところの大航海時代、15世紀ごろからです。既に14世紀のルネッサンス時代から、宝石は王侯貴族の間で流行し、様々な宝石を用いたエンゲージリングが誕生していました。15世紀の有力な王侯貴族であるハプスブルグ家を中心に当時流行したのが、ギリシャ語で「Adamas」、「不屈」「征服されない」という意味を持つダイヤでした。その硬質な美しさと輝きに永遠を見出し、「不変の愛」を象徴する宝石として、エンゲージリングに用いられ始めたのです。その後、産業革命やダイヤ鉱脈の発見を経て、ダイヤのエンゲージリングの風習は裕福な商人層、市民層にも広まっていきました。
時代は変わり、場所は日本へ移ります。1960年代の日本においてもエンゲージリングの風習は広まっていましたが、当時はダイヤに限らず、様々な宝石のエンゲージリングが贈られていました。状況が変わったのはそれから10年後、1970年代から始まったあるキャンペーンです。南アフリカのダイヤジュエリー会社が、日本人の「贈り物好き、本物志向、儀式を重んじる」という特性に着目し、「ダイヤは永遠の輝き」「ダイヤは愛の証である」をスローガンとした婚約キャンペーンを打ち出し始めたのです。
その当時、日本でエンゲージリングを贈る人は結婚する人のうち約50%、さらにその中でダイヤのリングを用いる人は7%程度でした。しかし、当時の有名芸能人が結婚発表の際にこのキャンペーンに乗った発言をしたこともあり、ジュエリー会社のキャンペーンは「エンゲージリングはダイヤで、価格は給料3か月分」という一般常識にまでなってしまったのです。
ダイヤ以外の宝石は使ってはいけない?
一般常識とはいうものの、その成り立ちから歴然と分かるように、ダイヤのエンゲージリングは「日本中で定着したエンゲージリング」ではあるものの、エンゲージリングとしては数ある形態のひとつにすぎません。
エンゲージリングにダイヤ以外の宝石を使うならば、ダイヤの石言葉である「永遠の愛」のように、変わらぬ愛、深い愛情など、誠実で不変の愛に関連する言葉を持つ石がベターでしょう。現代においてもダイヤ以外の宝石として、海のように深い愛を意味するサファイア、情熱的な愛を意味するルビーなどが人気を得ています。
必ず宝石が必用?
「エンゲージリングに必ず宝石が付いていなければならない」という決まりはありません。個人の好みでシンプルな指輪を好む人もいますし、高価な宝石が付いている指輪は落ち着いて着けていられないという人もいます。シンプルなデザインのエンゲージリングを、そのままマリッジリングも兼ねて使用する人もいます。
高価で華やかな品というイメージが定着していたエンゲージリングも、結婚における考え方の多様性と共に変化しています。「そういうものだから」と定番に乗るのではなく、贈られる側の好みに寄り添うこともまた、深い愛の証となるでしょう。